動物たちのおはなし
みなさんこんにちは!フクロテナガザルを担当している、福井です!
ご無沙汰しております!
フクロテナガザルについては、当園でもいくつものニュースがあるのですが、取り急ぎお伝えしたいことがあります!
それは、「おっさんのような『アァ~!!』という鳴き声」で一躍時の人(時のサル?)になった、東山動植物園のフクロテナガザル「ケイジ」くんの鳴き声について!
実は、数年前から某動画サイトなどで「鳴き声が面白い」と話題になっていたケイジくんですが、今月になって某バラエティ番組で紹介されたことをきっかけに、その鳴き声が注目の的になりました。
その後は各局、様々な時間帯の番組で取り上げられ、話題を呼んでいます。到津の森公園も、東京のテレビ局さんから電話で取材を受けました。
…と、ケイジくんが大人気になり、フクロテナガザル自体が脚光を浴びている(のかな?)のは、フクロテナガザルを飼育している飼育員として、とってもとっても嬉しく思っています。
しかし!番組によっては、「あぁ、その表現だと誤解されちゃうかも…」という文言でケイジくんを紹介していることもあり、少し複雑な気持ちです。
せっかくなら、もっともっとフクロテナガザルのことを知ってほしい!という思いから、フクロテナガザルの鳴き声について、ちょっぴり(?)紹介させていただきます!
そもそも、テナガザル類はサル類(霊長類)の中では人間に近い種類で、ボノボ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンとともに「類人猿」と呼ばれています。東南アジアに19種類が暮らしていて、フクロテナガザルはその中の一種にすぎません。ちなみに、ノドに大きな袋(共鳴嚢やのど袋などといいます)を持っているのはフクロテナガザルのみで、その名前の由来となっています。
テナガザル類は、全ての種が独特の鳴き声をもっています。鳴き声は複雑な音声パターンから構成されていて、「テナガザルは人間以外で最も複雑な音声コミュニケーションをする」「テナガザルは歌をうたう」と言われています。
ここまでで、ケイジくんの「アァ~!!」が、テナガザル類に見られる独特の歌(鳴き声)の一部だということをイメージしていただけたら嬉しいです。ここからは、歌の構成や意味についてご紹介します。
※ここからは、鳴いている時間帯全体のことを「歌」、歌の中の音のパターンを「鳴き声」と表現します。「鳴き声」が集まって「歌」を構成しているとイメージしていただくと、分かりやすいと思います。
テナガザル類は19種類がそれぞれ異なった歌をうたうのですが、種類によってはオスとメスで音程やタイミングのパート分けがあります。フクロテナガザルも、パート分けがある種類のひとつです。
歌の中で、オスとメスが特に特徴的な声で歌うパートがあり、この時のメスの鳴き声を「グレートコール(Great call)」、オスの鳴き声を「コーダ」または「メイルコーダ(Male coda)」と呼びます。メスのグレートコールとオスのコーダは基本的にセットで、フクロテナガザルの場合は、メスがグレートコールをはじめると、その声に被せるようなタイミングでオスがコーダを鳴きます。
テナガザル類が歌をうたう理由は、大きくわけて2つあるとされています。
一つ目は、なわばりのアピール。大声で歌って自分たちの居場所をジャングル中にアピールしあうことで、なわばりが重複することを防ぎ、無駄な争いが起きにくいとされています。
そしてもう一つが、夫婦間のコミュニケーション。オスとメスが同時に鳴いたり別々のパートを分担して歌ったりすることで、絆を深めている、なんて説もあります。メスのグレートコールにすぐさまオスがコーダを重ねることで、ひとりもののオスがメスを狙って近づいてくるのをけん制する役割があるのではないか、とも言われています。
到津の森公園のフクロテナガザルの場合、1日のうち3~5回ほど歌をうたう時間があり、1回の歌は10~20分間ほど続きます。1回の歌の中で、グレートコールとコーダは3~5回ほど現れます。グレートコールとコーダ以外の鳴き声は、便宜的に「通常のパート」とします。通常のパートを何度も繰り返すうちに、メスがグレートコールをはじめ、オスがコーダで鳴く、というイメージです。
それぞれの鳴き方を、文字で表してみます。
【通常のパート】※タイミングが完全に揃うわけではなく、不規則なこともあり
オス「ホホホホッ、ホーッ!ホホホホッ」
メス「ホホホホッ、ホーッ!ホホホホッ」
【グレートコールとコーダ】
メス「ファッファッファッファッファッファッファファファファファファファ!!」
オス「 (無言) ゥアーッ、ファーッオゥ!!! 」
うーん、分かりにくい!うすうす分かってはいましたが、文字では伝わらない!!
と、いうことで、YOUTUBEの到津の森公園公式チャンネルにフクロテナガザルの鳴き声をアップしましたので、そちらを聞いてイメージを膨らませていただきたいと思います。
再生して20秒ほどで聞こえてくる甲高い「ファッファッ・・・」という鳴き声がメスのグレートコールです。
ここまで長々と書いてきましたが、そろそろ結論です!もうしばしお付き合いを!
動画を見ていただくと、ケイジくんとは声色が全く違うのがお分かり頂けると思います。さて、それはなぜなのか?
これまで書いてきたように、フクロテナガザルはもともと、オスがコーダと呼ばれる「ゥアーッ、ファーッオゥ!」というような特徴的な鳴き声を発します。これがケイジくんの「アァーッ!!」の正体です。つまり、この鳴き声自体はケイジくんだけの特徴ではなく、フクロテナガザルの習性なのです。
ただ、メスのグレートコールもそうなのですが、コーダの鳴き方や音程、声色には個体差があり、ケイジくんが独特な声の持ち主なため、あれだけ面白い「アァーッ!」という鳴き声が注目されているのだと思います。そして、ケイジくんは同居しているメスの「マツ」さんがグレートコールをはじめていないタイミングでコーダを発するため、「アァーッ!!」が特に目立っているのでしょう。
なので、ケイジくん以外のフクロテナガザルを見ていても、ケイジくんと同じ「アァーッ!!」という鳴き声を聞くことはできません。ただ、フクロテナガザルはそれぞれが個性的な歌声を持っていますので、歌声の違いやその個体の特徴を聞き比べてみると、面白いと思います。
そして、フクロテナガザルは絶滅が心配されている動物です。面白い鳴き声をきっかけに、フクロテナガザルという動物そのものや、それを取り巻く環境などにも少し目を向けていただけると、こんなに嬉しいことはありません。
もっともっとお伝えしたいことはあるのですが、いい加減にこのあたりで自重しておきます!ぜひ、到津の森公園のフクロテナガザルにも会いに来てくださいねー!