動物たちのおはなし
12月19日、アライグマのナッツが息をひきとりました。
ナッツが生まれたのは、2010年7月11日。
当日、朝来てみると、お母さんチロルのおなかの下にいるのが発見されました。
到津の森公園になってから、初めてのアライグマの赤ちゃんでした。
次の日には、もう1頭の赤ちゃんの出産も確認し、♂♀1頭ずつの双子の赤ちゃんでした。
産まれて間もない体重は、およそ60グラム。
本当に小さなその体を、手のひらに乗せた時は感動しました。
飼育経験の浅い私はほとんど育児の準備もできぬままでしたので、
バタバタと準備をする中、神経質なチロルがちゃんと育ててくれるか不安でした。
が、その後も、チロルは初めての出産と育児、気の利かない飼育員(私)にも関わらず、
順調に子育てをしてくれて、子どもたちは日に日に成長していきました。
生後10日もすると、目の周りと尻尾が少しずつアライグマらしくなってきました。
写真はミルクを飲んだ後なので、おなかぷっくり満足そうに寝ています。
生後24日目。チロルも落ち着いた様子で子育てをしてくれています。
親子そろって、寝ている姿がなんとも微笑ましい。まだ眼は開いていませんが、
よちよちと歩くようになってきました。
生後26日目。ついに、目が開いた日です。
目が開くと、また一段とかわいさが増しますね。
生後30日も過ぎると、すっかり歩くのも上達して、兄妹でプロレスごっこをする姿も
見られるようになってきました。
親子でハイ、チーズ。ナッツは眼の下にうっすらと白い毛が生えているのが特徴でした。
寝ている姿も愛らしいですね。(右がナッツです)
生後47日目には、初めて食べ物を口にし、
今まで登れなかったところにも登れるほど力もついてきました。
子どもたちの成長は、本当に早く、毎日の観察が楽しみでしたね。
生後59日目。兄妹で記念撮影。(右がナッツ)
この日は、運動場デビューの日でした。
運動場にもわずか1週間で慣れ、リラックスした様子で
おっぱいを飲む姿も確認されました。
生後86日目からは、体重測定のトレーニングを始め、生後95日目には
乗れるようになりました。
好奇心旺盛、人懐っこい妹のナナに対し、お兄ちゃんのナッツは少し臆病で、
お母さんにくっついて行動していることが多い、甘えん坊さんでした。
(ひざに乗っているのがナナ、はかりの上の子がナッツです)
その後もすくすくと成長し、体つきもしっかりとしていた所で、次の難問。
父親タロウと、お隣さんイチゴとの同居を目指したお見合いでした。
2012年度、新たな年度を迎えるとともにお見合い開始。
(外への出口から顔をのぞかせる子どもたち。手前から、チロル、タロウ)
当時は、父親のタロウは子どもたちに攻撃を仕掛けけることもなく、むしろ子どもたちの方が牽制的で
タロウはおされ気味。この分だと、上手く行きそうと思っていたのですが。
ただ、問題だったのがお隣さんのイチゴでした。子どもたちに、警戒しまくり、
子どもたちが近くに寄ろうものなら「ガウッ!!」っと、かみつくそぶりを見せ
子どもたちもそれに刺激され、兄妹VSイチゴの三つ巴の取っ組み合いに。
気付けば、チロルが子どもたちに加勢し、タロウがイチゴに加勢し、五つ巴?の取っ組み合い。
この時は、一頭、また一頭とひっぺがえすのに苦労しました。
アライグマたちのお見合いには、ほんとうに頭を悩まされます。
そして、2歳を迎えるころになると、ナッツも性成熟を迎える時期。
このころには、今度はチロルが子どもたちを煙たがるようになるんですね。
子どもたちと一緒に寝室に帰るのを拒むようになり、寝室に入ったら入ったで、
ストレスからか落ち着きないそぶりを見せ、
この時は、もう親離れ子離れの時期なんだなと、思いました。
それから、少ししないうちにチロルはタロウ、イチゴと暮らすようになり、
(まあ、もともと一緒に暮らしていた子たちなのでこちらはすんなりいきました)
その後は、メス同士ということもあったのか、ナナとイチゴのお見合いが軌道に乗り、
ナナも半日を、イチゴたちの群れで過ごすようになりました。
ただ、ナッツだけは、どうしてもイチゴと相いれないようで。
そうこうしているうちに、ナナは鹿児島の平川動物園に引っ越すことになり
いよいよ、ナッツはひとりきり。
といっても、もともとアライグマは群れではなく、単独で生活している動物。
そこは、全然気にしない様子でさみしそうなそぶりもなく、まったりとくらしているようでした。
このころには、体重測定の時に頭やおなかを触らせてくれるほど、私にも慣れてくれていて。まあ、
臆病は臆病でしたけど。。。
さて、これからは本格的にナッツの群れ入りが目標です。がしかし、タロウがナッツを大人の♂と認識し始めたのか、
攻撃的になってきたのです。
イチゴは変わらず、ナッツは気に食わないみたいだし、チロルも飛びつきまではしないまでも、
近くによるとガウウウウっとなる始末。。。
ナッツも若さからか、すぐケンカをふっかけていくし、、、
まあ、それも時間をかければ何とかなるかもという希望だけを信じて
なんとか、私の監視下(ケンカの仲裁役ありき)で、一緒の部屋に4頭が入るようにもなってきました。
ここまで、2年かかってしまいましたが、さて、この先まだまだ時間はかかるかもしれないけど、
なんとかなるかもっと思っていたんですけどもね。
2014年12月11日、ナッツがぱったりとエサを食べなくなったんですね。
それまで、お隣のイチゴに発情の兆候が見られていたので、それに影響されて落ち着きがなかったり、
エサよりもメスって感じもあったのですが、なんだかんだちゃんとエサは食べていたんですよ。
それが、この日を境にぱったり。
日中もほぼ寝ているし、、、
これは、おかしいぞってことで
12月15日。ナッツの検査をしてもらいました。
ナッツはまだ4歳と若い個体ですから、いったい何が?まさか、腎不全。。。?
とか思っていたのですが。。。
検査結果は、血液のがん、白血病です。
それから、抗がん剤を投与しながらの生活、なんとか食欲だけでも戻らないか。
ナッツにおもちゃ箱を作ってやろうと思いつつ、まだできていなかったので、元気になったら
おもちゃたくさん作ってやるからなっと、回復することを願っていたのですが。
今回のケースは、急性白血病。抗がん剤も効きにくいという話の中、状態の回復は見られず。。。
12月19日。朝の時点で、右半身が動かなくなり、起立不全に、左足だけで、もがくといった状態に。。。
その後、急速に容体が悪化し、手厚い治療と看護の中、11時1分、その息を引き取りました。
アライグマの、白血病の発症例はとてもまれだそうです。
私たちの伴侶動物としてなじみ深いイヌの急性白血病の寛解率も30パーセントとのこと。
動物たち、とくに動物園動物たちの病気の治療はまだまだ確立されていないことが多くあります。
そして、動物の死には、いつも後悔がついて回ります。
ナッツに対しても、まだまだしてやれたことはあったでしょう。
たとえ、白血病に対してなす術なくても、それまでの生活をもっと豊かにしてあげられたことはありました。
失ってから気づくことは多くあります。
たいていの動物たちは、人よりも寿命は短いです。おそらく、この業界で働く以上、
これからも多くの死に直面することでしょう。
そんなときに、少しでも、動物たちの幸せを意識した生活を送らせてあげられれば。
動物たちの飼育に関して、成功と失敗は判断がつけづらいものです。
今回、ナッツを群れ入りさせることは正しいのか、それともそれ以外のところでもっと充実してあげる方法が
あったのではないか。。。もっといい方法があったはずでは。
改めて考えることは多くあります。
ナッツの死は無駄にはなりません。
これから、アライグマはまた繁殖を行っていくことでしょう。
そんなとき、ナッツの記録が活かしていけるはずです。
活かしていかなければなりません。
動物園と言うのは、多くの生と死の積み重ねで今があるのかもしれません。
死とは悲しいものですが、そこから、皆さまにも少しでも いきもの の命について
感じてもらえるものがあれば、私たちが共に暮らす地球上の いきもの に対しても
思いやれる、
死について考えることは、命を尊く思うことに繋がると信じています。
さいごに、
ナッツの想い出をアライグマ舎に作らせていただきました。
どうぞ、みなさま。お立ち寄りの際は、ナッツへ送る言葉をお寄せ下さい。
ありがとう、ナッツ。