名誉園長の部屋
ちょっとセンセーショナルな書き出しになってしまいましたが、動物園の将来を考えると不安な材料がそこここに見受けられ、めまいをおこしそう。しかしその現実をみつめることこそ新たな道が見つかるのだと信じています。
12月14日金曜日の毎日新聞の夕刊記事です。見出しは「増やすゾウ~」。いやいや、動物園関係者から見れば駄洒落をいってる場合じゃないのですが・・・。
この記事に書かれている愛媛県のとべ動物園で生まれた3歳のアフリカゾウ「砥夢」君は、東京都の多摩動物公園へ「ブリィーデングローン(繁殖の為の貸借)」され、日本の動物園の夢を託されています。
ゾウの寿命は50歳ほどと長いので、巷ではその増減(これこそゾウ減なのですが)にはあまり関心を持たれていません。
近年20年のうちにゾウはどのように減ってしまったのでしょうか。
日本動物園水族館協会の資料から拾ってみましょう。1992年72頭いたアフリカゾウは2011年では39頭に減っています。実は1992年アジアゾウは58頭で、アフリカゾウの数はそれを上回っていました。しかし、2011年にはアジアゾウの飼育頭数は70頭に増え、アフリカゾウは逆に少なくなっています。と書くとアジアゾウの将来は安泰という印象を受けますが、アジアゾウの子どもですら長い動物園の歴史の中で成長している(現在進行形です)のはわずか2頭。いずれにしても日本で3世は生まれていません。アフリカゾウの雄は1992年には17頭。しかし2011年には8頭に減じています。逆にアジアゾウの雄は1992年8頭だったのが2011年には14頭に増えています。いかに日本の動物園でアフリカゾウの繁殖が困難になってきているかが分かります。
ではアジアゾウの未来は明るいのでしょうか。そうではありません。2011年アジアゾウは37の動物園で飼育されていますが、そのうち25園は雄(3園)または雌(22園)の単性飼育です。残りのわずか12園しか雌雄で飼育していません。単性飼育している園はいずれゾウを失うことになります。しかし雌雄飼育している園が安泰なわけでもありません。かつてチンパンジーは雌雄で飼育されることが多かったのですが、ほとんどの園で繁殖できませんでした。最近になって増加しているその理由は、群れ飼育を始めたからなのです。ゾウやチンパンジーのように高等な社会生活をする種(人もそうですが)は、群れから学ぶことが繁殖や生きていくのに最も重要なことなのです。ですから雌雄飼育している動物園も安穏としていられないのです。
近い将来、動物園からゾウという動物園の一番の宝を失うことになるかもしれません。そうならないためには動物園の新たな概念を創造していかなければならないのです。古きが故の貴さもあるとは思いますが、古き概念だけでは生きていくことができません。
変わろうとする私たち動物園人だけでは動物園は変わることができないかもしれません。これを読んでいる皆さんが私たちとともに変わっていただけると、大切な宝を失わずにすむかもしれないのです。
追伸
もう一つ、深刻な問題です。
1992年、日本の動物園に208頭のキリンがいました。しかし2011年には138頭に減っています。キリンの寿命は20年ほどと短命です。減少は加速化するかもしれません。